持続可能な社会のために、人間がアリから学ぶべきこと【きかせて、子そだて/村上 貴弘さん】

2022年6月19日

【2022年5-6月号掲載】

熱帯の森でアリの巣を掘ったり、「アリ語」の辞書をつくろうとしたり、世界各地を飛び回り、キノコを育てる「ハキリアリ」を中心に、アリを研究する村上貴弘さん。アリから人間が学べることって?

ご自身の子育てについてもお話を伺いました。

 
もくじ

1.「コロナも終わっていたかも」アリから学ぶ、持続可能な社会
2.コミュニケーションがないとアリも人間もうまくいかない
3.『はらぺこあおむし』のチョウの翅が気になる
4.今回お話を伺ったのは

「コロナも終わっていたかも」アリから学ぶ、持続可能な社会

人間は、自分たちのことを「万物の霊長、高度に発達した社会を持っている」と思いがちですが、人間がこれだけ都市を発達させ、集団で生きるようになったのはここ数百年。
発展が急速すぎて制度が追いついておらず、数十人のグループで生きていた頃の生活様式をまだ守っていると感じます。


そこへいくとアリは密集して生きる先輩。
数千万年、土の中の巣で集団で過ごしているので、歴史が違うんです。

アリはとてもきれい好きですが、巣でキノコを育てるキノコアリは特にきれい好き。巣に帰ってくると、細菌やウイルスを持ち込まないよう、脚を使って体をきれいにする「グルーミング」を100%念入りに行います。


現在のコロナ禍において、「帰宅したら毎回必ず、手洗い・うがい・着替え」を徹底している人がどれだけいるでしょうか?

しかも、アリは自ら体内で抗生物質をつくり出し、体の表面に塗るのです。自分で抗生物質をつくることのできない人間よりも、はるかに洗練されています。


人間も「100%確実に手洗い・着替え」ができていたら、コロナ禍はあっという間に終わっていたかもしれません。

持続可能な社会のために、人間がアリから学ぶべきことはたくさんあると思いますね。

コミュニケーションがないとアリも人間もうまくいかない

アリは「におい」でコミュニケーションをとっていると長年考えられてきましたが、実は「音声」も使っているとわかってきました。
特殊な録音装置で調べると、ハキリアリはお互いにしゃべりながら、葉を切り、キノコを育てているようなのです。実験でハキリアリの声を止めると、キノコ畑が小さくなることもわかりました。

「自分勝手な育て方」では、キノコがうまく育たないんですね。


他者とのコミュニケーションの大切さは、人間も同じ。

僕自身にも思い当たるできごとがあります。

アメリカの大学で研究員をしていた頃、パートナーが語学学校に行く間、赤ちゃんだった長女が泣くのを1人でずっと抱っこしていて、「アメリカまで来て僕は何をしているんだろう」と、耐え難い孤独を感じました。「家で論文を書けばいいでしょう」とも言われたけど、子どもを見ながら書けるわけがないですよね。


人間でもアリでも、利己的にならないためには、コミュニケーション、他人との会話や交流が必要なんです。

『はらぺこあおむし』のチョウの翅が気になる

子育てをしていると、生物学者としての「職業病」が顔を覗かせることも。
『ライオン・キング』を見れば「アフリカにハキリアリはいないから」、『はらぺこあおむし』を読めば「チョウの翅の形が上下逆なんだけどね」とつぶやいて、家族の不評を買いました。

子どもは2人とも女の子ですが、小学校の頃は張り切って一緒にダンゴムシなどの自由研究に取り組みました。もちろん押し付けたわけではないんですが、2人とも「生き物博士」と呼ばれていましたね。

センスもいいし、「ひょっとしたら生物学に進むかも?」なんて期待もしたのですが、今は全く別の分野に進みそうです。


どうやら子育てでは「親が出過ぎない」が課題のようです。
でも、身近な大人が何かに夢中になっている姿を見せることは大切。親が熱心に生き物を面白がる姿を見せられたことはよかった、と今になって思います。


しかし、だからといって子どもは親が思う方向には全然進まないものですよ(笑)。

今回お話を伺ったのは

村上 貴弘さん

九州大学持続可能な社会のための決断科学センター准教授。1971年神奈川県生まれ。茨城大学理学部卒、北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了。博士(地球環境科学)。NHK「ダーウィンが来た!」、Eテレ「又吉直樹のヘウレーカ!」など、メディア出演多数。大学生と高校生の二女の父。
 
アリ語で寝言を言いました

「大きな頭で巣の扉となるアリ」や「お腹に蜜を溜め込んで貯蔵庫となるアリ」といった驚きのアリの生態から、アリ研究の過酷さや面白さが伝わってくる体験記、誰も気づかなかった「アリ語」の存在、「持続可能な社会のためにアリが教えてくれること」など、楽しく学べる1冊。村上貴弘著、扶桑社新書。




 
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