ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。
【2026年9-10月号掲載】
サルのお父さんは「誰だかわからない」がほとんど
狩猟採集をしていた頃のヒトは、ほとんどの女性が3〜4年に1回の間隔で出産していたと考えられています。ヒトは他の大型類人猿に比べると、出産間隔が短いほうです(ゴリラ4年、チンパンジー5〜6年、オランウータン7~8年)。
ヒトがこのように短い間隔で出産できるようになったのは、「お父さん」と「おばあちゃん」のおかげだと言われていますが、今回はお父さんについてお話ししようと思います。
ほとんどのサルでは、お父さんは子育てに関わらず、お母さんが一人で子育てをします。例えばチンパンジーやニホンザルでは、同じ群れの中に複数の雄と雌がいて、誰がお父さんなのかわからないことがほとんどです(ゴリラやマーモセットなど、子育てする「お父さん」がいる種もいますが、霊長類全体を見渡すと少数派です)。
「出産間隔を短くする」という、ヒトの生き残り戦略
しかしヒトでは、どんな文化でも必ず「お父さん」と呼ばれる存在がいます(文化によっては必ずしも「遺伝的な父親」ではない場合もありますが、ほとんどの文化で、特定の男性が、母親と一緒に子どもの保護者の役割を担っています)。
狩猟採集で暮らしていた私たちの祖先の時代は、お父さんが狩りに出掛けて獲物(肉)をとり、お母さんが採集に出掛けて、植物性の食物(果実やイモなど)をとってきて、とってきたものを子どもも含めて家族みんなで分けあって食べました。また最近では、狩猟採集社会でも女性が狩猟をしていたという報告が増えてきています。
狩りは失敗することも多く、毎日必ず肉を食べられるとは限りませんが、成功すればとても栄養価の高い食べ物が一度に大量に手に入ります。一方、植物性の食物は毎日手に入る一方、肉に比べると栄養価が高いとはいえません。
つまりお父さんとお母さんが互いに食べ物を持ち寄って、協力して子育てをするようになったので、ヒトの女性は3〜4年という比較的短い出産間隔で子どもを産むことができるようになったのです。
とはいえ、狩猟採集の時代、子どもの死亡率はとても高かったと考えられています(乳幼児の死亡率は約40%)。ヒトは出産間隔を短くしてたくさんの子どもを産まないと、次の世代に命をつなげていくことができませんでした。
男性が雄から「お父さん」になり、お父さんとお母さんが互いに助けあって子どもを育てる社会をつくることで、ヒトは厳しい環境の中で生き残ることができたのです。
お話を伺ったのは
久世 濃子さん
1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に『オランウータン~森の哲人は子育ての達人』、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書『オランウータンに会いたい』など。二女の母。