研究者に大切な素質を子どもはみんな持っている【きかせて、子育て/藤井一至さん】

2026年8月2日

公園、園庭、家庭菜園といえば、「土」。身近な存在ですが、では「土とは何か?」となると、実はわかっていないことも多く、「地球最後のナゾ」とも呼ばれるほど。そんなナゾを解き明かそうと各地を飛び回り、世界の人口を養う土壌を探し続ける「土の研究者」藤井一至さんにお話を聞きました。

【2026年7-8月号掲載】

自然豊かな土地で育った、室内遊びが好きな子ども



山と田んぼに囲まれた、自然たっぷりの土地で育ちました。
幼児の頃、乗って遊んでいたおもちゃの車の中に数十匹のミミズをコレクションしていたことを覚えています。車の椅子の下にスペースがあるでしょう、あそこですよ。収集癖もあって、石ころも集めていました。
でも、ミミズや土が好き、というわけではなく、家の中で遊ぶ方が好きな子どもでした。

田舎育ちで家の周囲に農家が多かったので、「自分は農業に詳しい」という意識があり、大学では農学部に進みました。入学後すぐに、思い込みだったと思い知らされたのですが。
また、高校では化学が好きでした。化学反応式が自然の中ではどう働いてトマトやジャガイモが育つかを考えるのは、試験管の中の実験より複雑で面白そうと思ったんですね。

家庭菜園のプランターは世界の食糧問題とつながっている



世界を見ると、作物の生産に向いた肥沃な土は限られていて、増え続ける世界人口を支えるには不足しています。「個人に何かできることはありませんか?」とよく尋ねられますが、「これです」と答えられるような、簡単な問題ではないですね。

まずは、自分が毎日食べているものがどこでつくられているのか、知ることが大切です。そうすると、コーヒーなど日本ではとれないものもあるな、じゃあ他の国と仲良くして、お互いの得意なものを交換していかなければならないな、と気づきます。

自分でトマトでも何でも育ててみることもいいですね。「土があって雨も降るから種を撒いておけば育つでしょ」なんてことはなく、肥料が足りなかったり、病気にやられたり、トマトひとつ育てるのがいかに大変かわかります。

問題も解決策もそれぞれの土によって異なっていて、それは世界の食糧問題と同じことなんですね。
「なぜ家庭菜園のプランターでジャガイモがうまく育たないか」を考えることは、東南アジアで森を切り拓いて畑にして生産した結果、土が痩せて作物が育たなくなる問題とつながっています。解決するには「次はこうやってみよう」と試行錯誤するしかないんです。

「世界の食糧問題を解決するために」なんて考えることはないですよ。「育てるのが楽しいから」「おいしいトマトが食べたいから」でいいんです。
自分がおいしいものを食べるための技術が、世界の役に立つかもしれません。

その瞬間を楽しむ気持ちを成長しても大事にしてほしい



幼児は目線が土に近いですし、よく土で遊びますよね。泥団子をつくっておままごとに見立てたり、砂遊びをしたり。泥団子や砂山はつくっても、すぐに壊れてしまいます。
大人からしたら無駄なことのようですが、幼児は「壊れたからこの3時間が無駄になった」なんて思いません。その瞬間を楽しめているわけです。

もう少し成長すると、だんだん目に見える成果や記録に残る何かを求めるようになって、泥団子も乾燥させてピカピカに磨いて友達に自慢しないと意味がない、となってしまいがちなのですが。 幼児の持っている、その瞬間を楽しむ気持ちを大事にしてほしいな、と思いますね。
研究も同じです。結果はすぐに出ませんが、その瞬間、瞬間を楽しんで、繰り返したところに成果があります。

土じゃなくても、面白いことはいっぱいあります。子どもたちには、何でもいろいろとやってみてほしいですね。
楽しいことはいくつも転がっていますよ。足元にあるけど、奥が深い土のように。

今回お話を伺ったのは…

藤井一至さん
藤井一至さん

土の研究者。福島国際研究教育機構 土壌ホメオスタシス研究ユニット ユニットリーダー。1981年富山県生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林までスコップ片手に世界各地、日本の津々浦々を飛び回り、土の成り立ちと持続的な利用方法を研究している。『土 地球最後のナゾ』(光文社新書)で第7回河合隼雄学芸賞を受賞。『クレイジージャーニー』(TBS系)などメディア出演多数。小4・年中の2児の父。。

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