ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。
【2026年7-8月号掲載】
ニホンザルは2年に1回、オランウータンは6~9年に1回
長女が2歳になった頃、親戚などから「そろそろ2人目は考えないの?」などと言われるようになりました。「2人目をいつ産むか?」と悩んだ方(悩んでいる方)も多いと思います。
私たち現代人は、次の子をいつ産むかを自分たちの意思で決めることが多いですが、多くの哺乳類は種ごとに決まった「出産間隔」があります。
たとえばニホンザルなら2年に1回(母親の栄養状態がよいときは1年に1回)、ゴリラなら4年に1回、オランウータンなら6~9年(!)に1回。私たちヒトも、昔はほとんどの女性が3~4年に1回の間隔で出産していたと考えられています。
今でも定住をせず、狩猟採集をしながら移動生活をしている人たちは、3~4年に1回しか出産しないので、年子はほとんどいません。
ヒトは約1万年前に農耕を始めて、母親の栄養状態が良くなるとともに、良質で消化しやすい食物を離乳食として利用できるようになったので、出産間隔が短くなったのです。
「4歳差以上」と決めていたが結果的に「6歳差でよかった」
哺乳類では一般に、「出産間隔=赤ちゃんが離乳する年齢」で、これは赤ちゃんだけでなく、オトナも含むその種の社会にとって、とても重要な数字です。
たとえばゴリラやチンパンジーでは離乳前の赤ちゃんは何をしても許されます。しかし離乳する頃には、オトナに挨拶するなどの群れのルールを守らないと、オトナから攻撃されるようになります。
狩猟採集民の社会でも(昔の日本でも)、3歳より小さな子どもは、周囲の大人から甘やかされて育ち、叱られることもほとんどありませんが、下の子が生まれると、社会のルールを教えられるようになります。
ちなみに私は、私自身が年子だった経験や子育てに振り向けられる自分の精神的・時間的余裕を考慮して、「出産間隔は4歳以上あける!」と心に決めていましたが、結果的に6歳差になりました。保育園料のきょうだい減免措置が受けられないなどのデメリットもありますが、それぞれの乳幼児期に丁寧に向き合えたので6歳差でよかったと心の底から思っています。
ヒトの社会も、赤ちゃんの心も体も、本来は3~4年で次の子が生まれる、という間隔のもとに進化してきました。
しかし現在の社会は、祖先の暮らしとは大きく違ってしまっていますし、各家庭のライフプランや経済状況、母親のキャリア形成や年齢など、さまざまな要因を考慮しなければならないので、3~4年間隔で子どもを産んだ方がよい、と一概には言えないと思います。
それぞれの母親が子どもを産む間隔を、多くの選択肢の中から選ぶことができる社会であってほしいなと思います。
お話を伺ったのは
久世 濃子さん
1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に『オランウータン~森の哲人は子育ての達人』、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書『オランウータンに会いたい』など。二女の母。