小児科で「今日はお母さんは?」【コドモカルテ/小児科専門医 森戸やすみさん】

2022年10月3日

【2022年9-10月号掲載】

子どもの病気やケガは、いつも突然やってきます。
それは、子どもは大人のミニチュアではないから。
子どもの体や病気を知って、安心して子育てを楽しもう。


「こんな時どうする?」
小児科医が教える病気のケア

小児科で「今日はお母さんは?」

 母親にだけ話しかけるのは
 デメリットしかありません


こんな経験はありませんか?

お父さんが子どもを小児科に連れて行くと、「今日はお母さんはどうされたんですか?」と尋ねられてしまったり、夫婦で一緒に子どもを健診に連れて行ったのに、担当者がなぜか母親だけに話しかけてくる、といったことです。

私自身、小児医療についての会議に出ることがありますが、そういった場でも「お母さんたちが不安に感じているのは…」「ぜひお母さん方のために…」など、「子育てに関わるのは母親」ということが前提になった会話を聞くことが少なくありません。

育児について書かれた本を読んでも、「お母さんはこうしてあげて」「心配なお母さんもいるでしょうが」など、母親にだけ話しかけてくる本が多く存在します。

このような状況は、子育てにとってデメリットしか生みません。

 

「男は仕事、女は家庭」という
 偏見を強化することにも


現在では多くの家庭は共働きであり、役割分担は家庭によります。

せっかく社会では、「男は仕事、女は子育てと家事」という性別役割分担意識をなくしていこうとしているのにも関わらず、子育てについて母親にだけ語りかけてくることは、「女は子育てと家事」という偏見の強化につながります。聞いている子どもにも、誤ったメッセージを伝えてしまうでしょう。

また、お母さんにとっては、「あなたが育児の責任者ですよ」と繰り返しプレッシャーを与えられているようなものです。実際には、両親とも「親であること」は変わりがないのに、真面目なお母さんほど、重圧を感じてしまいます。

ただでさえ出産直後は心身の疲労が高く、産後うつのリスクも高まっています。プレッシャーをかけ続ける意味はありません。

 

 健診や受診で会う
 父親は増え続けています


お父さんにも失礼です。ここ10年ほど保健センターでの乳幼児健診会場やクリニックでお会いするお父さんは増え続けていますし、全員普段のお子さんの様子を理解されています。

それなのに、お母さんにだけ話しかけられてはムッとして当然。

私は、父親にも母親にも、同じように接しています。 子どもにとっても、お母さんだけに情報を伝える意味はないでしょう。

子どもの体調や成長について把握している人が、家族内に複数いた方が、いざというときのためにも安心です。災害や急な体調不良のことを考えてみれば、すぐにわかることですね。

 

 子どもに何かあっても
母親のせいではない


世の中には、子どもに何かあると、「私が寒い思いをさせたから風邪をひいてしまった」など、自分を責めてしまうお母さんがいます。

でも、実際には風邪をひくのは、ウイルスや細菌のためであり、お母さんの責任ではありません。それなのに、「自分のせいだ」と思ってしまうのは、「子育ての責任者は母親だけ」という世間からの刷り込みのせいでしょう。

こういったプレッシャーを減らし、母親の負担を軽減するためにも、また、父親や子どものためにも、子育てについての情報は、父親や保護者全体に向けて発信するようにしましょう。医療や子育て支援に関わる人にも、ぜひ気をつけてもらいたいものです。


小児科
※イメージ写真

教えてくれたのは…

森戸 やすみ さん 

小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、どうかん山こどもクリニックを開業。
著書は「小児科医ママが今伝えたいこと!子育てはだいたいで大丈夫」等多数。

このページをシェアする

週間人気記事ランキング

もっと見る