「愛情不足では?」と言われた【コドモカルテ/小児科専門医 森戸やすみさん】

2022年3月19日

【2022年3-4月号掲載】

子どもの病気やケガは、いつも突然やってきます。
それは、子どもは大人のミニチュアではないから。
子どもの体や病気を知って、安心して子育てを楽しもう。


「こんな時どうする?」
小児科医が教える病気のケア

「愛情不足では?」と言われた

 電車で泣く娘に「お母さん、
 もっと抱きしめてあげて」


子どもに何か困ったことがあると、「愛情不足じゃない?」と言ってくる人たちがいます。祖父母やママ友、近所の人といった身近な人だけでなく、全くの見知らぬ人から言われることもあります。

私自身も、娘が小さかった頃に経験があります。電車でグズる娘を見た高齢の女性がニコニコしながら近づいてきて、「お母さん、もっと抱きしめてあげて」と私を諭すように言いました。

娘が泣いていたのは、その前にテーマパークでめいっぱい遊んで疲れていたからで、私が抱きしめて愛情を示さなかったからではないのに。 とっさに言葉が出ず、それでも何か言おうとした私に、彼女は「いいのよ、わかっているから」という顔で頷き、去っていきました。

「泣く」以外にも、「夜早くに寝ない」「おしゃぶりが取れない」「何度も風邪を引く」「原因不明の病気になる」、大きくなると「非行に走る」「発達障害があるとわかる」…ことあるごとに言われるのが「親の愛情不足」です。

そんな言葉をまっすぐ受け止めて悩み、診察時に相談される保護者もいます。

ところが、そんな相談を受ける立場である、小児科医をはじめとする、子どもに関わる専門家の中にも、愛情の多寡の話をする人がいるのですから、残念なことです。

子どもが病気やケガをしたり、何かで困っている時に「愛情不足だ」なんて、あまりに主観的で根拠がなく、間違っている上に声かけとしても不適切で、ご家族との信頼関係を壊す原因になってもおかしくない発言だと思います。

私はこういった発言を見聞きするたびに、「愛情不足とは、親を責めるのになんと都合のいい言葉なんだろう」と思うのです。



※イメージ写真


 

 親を責めることで解決する
 子どもの問題はありません


愛情というのは、目に見えず、手で触れて確かめることもできません。ましてや数値もないので、「多い」「少ない」という量を計ることもできないものです。

しかし、困ったことに、わからないことに出くわすと、このあいまいな言葉を持ち出して、「これが不足しているから」と自分自身を納得させたい人がいます。

そもそも「愛情」とは何でしょうか。私は、愛情とは、行動に移すことで伝えられるものだと思います。子どもはエスパーではないので、親がどれだけ愛情を持っていても、表に出さないと感じられません。

たとえば、抱っこをして目を合わせ、微笑みかけてはじめて赤ちゃんは愛情を受け取れます。また、子どもが空腹だったり、清潔な状態でなかったりすると、親がいくら愛情を感じていても、子どもはそう思えないでしょう。「お腹を満たしたい」「清潔でいたい」という欲求が満たされて、保護者と双方向のコミュニケーションが成り立っている時、子どもは親の愛情を感じられるはずです。

しかし、もし親が子どもに愛情を感じられず、ふさわしい行動を取れないとしても、「愛情不足なので増やしなさい」と指摘しても、解決にはつながりません。

必要なのは、指摘ではなく支援です。まして、それ以外の親を「愛情不足」と決めつけることには弊害しかありません。子どもに関わる仕事をしている人には、特に注意してほしいものです。



※イメージ写真
 

教えてくれたのは…

森戸 やすみ さん 

小児科専門医。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、どうかん山こどもクリニックを開業。
著書は「小児科医ママが今伝えたいこと!子育てはだいたいで大丈夫」等多数。

このページをシェアする

週間人気記事ランキング

もっと見る